こちらでは、日本において実際に起きた事例(一部改変)をご紹介しています。
事前の対策により、漏えい予防・損害回復の両面において適切に対応できた好例となっておりますので、
ぜひ最後までご覧ください。
営業秘密漏えいを事前に予防した事例
Case.01
自社の営業秘密だけでなく、他社の営業秘密の管理も徹底し、お互いの信頼が向上したA社。
事例概要
特殊な軽量アルミ金属加工の技術を持つA社は、複数の医療機器を載せて院内を移動できる医療用のアルミ車を多くの病院に納入し、順調に業績を伸ばしていた。
しかし、長い付き合いのある取引先から医療用アルミ車を製作するノウハウである工程サンプルの提示を求められ、半信半疑で渡したところ、途端に取引を打ち切られた経験があった。
その経験から、自社・他社の情報の管理を徹底する方針を固め、取引先に対しても、その方針を示すことにより、自社の営業秘密漏えいを防ぐとともに、取引先からの信頼も獲得し、事業にも好影響をもたらしている。
機密情報が漏えいする要因を突き詰めてリスクを減らしていった結果、営業秘密の漏えいを未然に防ぐ体制を構築することができた。
予防策
「接近の制御」のための対策
・工場の入口は内部からのみ解錠可能な扉にした。
・取引先の部品・金型も、第三者に特別に入室を許可する場合、当該取引以外の部品等は目に触れないよう、覆いを掛けて目隠し管理を実施。
・図面等の重要データを管理するPCは、インターネットに接続せずローカルPCのみで管理。
・自社製品の工程サンプルは、「会社の財産のため提供しない」旨を取引先との契約書に明記。
「視認性の確保」のための対策
・金型やプレス機のある現場には「立入禁止」「撮影禁止」などの立て札を設置。
Case.02
従業員一人ひとりが営業秘密に携わることで機密情報への意識が高まったB社
事例概要
農業機械の修理・メンテナンスを手掛けるB社は、修理前よりも性能がアップすると評判の企業。
各工場を訪問し散在する農業機械のカタログ・図面データを、点検時に経年劣化した機械の現状データを、修理時に作業データを収集・蓄積していた。
このデータを活用して、独自のサービスを開発。
また、従業員の現場での工夫をマニュアル化し、社内で共有するようにした。
マニュアルには工夫を発案した従業員の名前を明記・登録し、従業員に当事者意識を持たせ、やる気も向上させた。
これにより、営業秘密は自分が作り出したという意識を一人ひとりが持つことで、外部への安易な機密情報の漏えいを強く防ぐ効果を発揮している。
予防策
保有する情報の洗い出し
・市場製品のカタログデータを収集・活用し、また、経年劣化した機械の現状データ・修理ノウハウを自社の知的資産として管理する。
会社と従業員との信頼関係の維持・向上
・経営者が「社員の知恵が我が社の財産」と明確に発信する。 ・ノウハウを文書化するとき、提案した従業員名を明記する。
Case.03
世界一の技術であることを従業員に浸透させ、安易な情報漏えいを防いでいるC社
事例概要
衣類クリーニングを営むC社は、水洗浄ができず水溶性の汚れを落とせない衣類の水洗浄を可能とする技術を生み出した。
世界唯一の技術(特許権とノウハウ)を持っているという事実を社員全体が共有し、誇りに感じることで、営業秘密の漏えいを防止することに大きく寄与する結果となっている。
予防策
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保有する情報の洗い出し
・取り扱った衣類の素材、ブランド、洗浄方法を全てデータ化して管理する。
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「接近の制御」のための対策
・従業員がアクセスできるデータを管理・制限する。
・毎日更新されるパスワードを従業員それぞれに付与する。
・使用する溶剤の性質等は従業員にも開示しない。 -
「持出し困難化」のための対策
・作業場への携帯電話等の持込みを禁止する。
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「視認性の確保」のための対策
・全ての作業工程をカメラで撮影・録画し、従業員に周知する。
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会社と従業員との信頼関係の維持・向上等
・作業スキルを従業員に見える化して教育する。技能認定や昇給でやる気を向上させる。
Case.04
厳格な情報管理でグローバルな生産体制を構築し、情報漏えいリスクを排除しているD社
事例概要
発光塗料の開発・製造を行うD社は、従来の発光塗料の10倍の輝度を有しながら有害物質を含まない画期的な製品を開発し、世界各国で特許を取得した。
社長自らが知財の重要性を訴え、社長の直下の法務・知財室が中心となり知財戦略室を立ち上げた。
製品の特許期間は満了となったが、商標の登録、技術ノウハウの秘匿化などに戦略的に取り組み、高い競争力を保っている。
技術の核となる製法や原材料情報は営業秘密として管理し、海外の生産工場には調合済の原料を供給し、製法・原材料情報は社内管理でも明らかにしないなど、生産現場での徹底した情報管理を行う。厳格な管理体制により機密情報の徹底管理を行った結果、営業秘密が漏えいするリスクをほとんど排除できている。
予防策
「接近の制御」のための対策
・海外の生産工場には調合済の原料を供給する。製法や原材料の情報は社内でも開示しない。
・取引先や共同研究開発相手には、製法や原材料の情報は開示しない。
・社内で秘密情報を取り扱うエリアや取扱い者を限定する。
・電子データについては、社内においてもアクセスを制限する。
「視認性の確保」のための対策
・秘密情報が含まれる電子情報はタイムスタンプで管理し、不正なアクセスや複製を検知できるようにする。
「信頼関係の維持向上等」のための対策
・ノウハウの発案に対しても特許取得と同様に報奨を実施。
営業秘密漏えい後の対応事例
Case.01
住宅リフォームに関する営業秘密を同業他社に漏えいさせられたA社
事例概要
A社は家電量販店を展開しており、住宅事業の柱としてリフォーム事業を行っていた。
しかし、住宅事業に従事していた従業員が退職した後、同業他社に転職し、A社のリフォーム事業の核となる営業秘密を転職先の企業に漏えいさせてしまった。
対応策
元従業員への対応
元従業員への対応として、明らかに意図的に営業秘密を漏えいさせているため、不正競争防止法違反の罪で提訴。
懲役2年、執行猶予3年、罰金100万円の判決を受け、有罪が確定した。
流出先企業への対応
流出先の企業にも同様に、不正競争防止法違反の罪が問題となったものの、起訴猶予処分とされた。
そこで、持ち出された営業秘密を利用したリフォームノウハウの使用差し止めと損害賠償を求める民事訴訟を起こした。
1審の地裁は、営業秘密の不正利用があったと認定し、約1800万円の損害賠償の支払い等を命じた。
Case.02
教育事業に関する顧客リストを名簿業者に売却されてしまったB社
事例概要
B社は教育関連事業を展開し、日本国内で高いシェアを獲得している。
そのB社から業務委託を受け、保守管理などを担当していた元従業員が、業務用PCから私物のスマートフォンに顧客リストのデータを移し、顧客名簿の買取を行っている業者に売却してしまった。
対応策
元従業員への対応
元従業員は、意図的に会社の顧客リストを漏えいさせているため、不正競争防止法違反の罪で起訴された。
懲役3年6ヶ月、罰金300万円の判決を受けた。
流出先企業への対応
流出先企業は、同業他社ではないため、まずは顧客リストの利用差し止めと削除を依頼。
顧客リストが、第三者となる外部企業への流出が確認された場合、損害賠償などを請求する考え。
Case.03
塗料に関する営業秘密を同業他社に流出させられたC社
事例概要
C社は、塗料製品において日本国内で高いシェアを獲得している。
塗料の製造方法は、一般に開示するようなものではなく、同社の営業秘密として管理していた。退職した元従業員が主力製品の製造方法を不正に取得し、USBメモリーに保存して外部に持ち出し、同業他社に漏えいさせてしまった。
対応策
元従業員への対応
元従業員には、不正に営業秘密を取得し、同業他社から見返りを受ける目的があることから、不正競争防止法違反の罪で起訴された。
懲役2年6ヶ月、執行猶予3年、罰金120万円の判決を受けた。