旧NHK党の立花氏の不正競争防止法違反等の有罪判決  | 札幌で営業秘密・企業秘密に強い弁護士なら北海道コンテンツ法律事務所

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コラム

旧NHK党の立花氏の不正競争防止法違反等の有罪判決

報道によると、政治家女子48党(旧NHK党)の立花孝志氏を被告人とする刑事事件について、立花氏の上告が最高裁判所で棄却されたとのことです(令和5年3月22日付け決定とのこと。)。
立花氏は、前参議院議員で、少なくとも同党の党首を自称している人物です(現在、同党の代表者と党首が誰かは争われているようです。)。

 

立花氏の確定した有罪判決では、営業秘密に関して不正競争防止法違反も問われましたので、本コラムではその点を中心に紹介します。

 

立花氏の刑事事件については、脅迫罪、不正競争防止法違反の罪、威力業務妨害罪が問われました。
一審の東京地裁令和4年1月20日判決では、いずれの罪も有罪となり、懲役2年6月・執行猶予4年となっています。
被告人(立花氏)からの控訴については、東京高裁令和4年10月24日判決で控訴棄却となりました。
(この東京高裁判決は、今のところ裁判所HPで公開されています。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/560/091560_hanrei.pdf )

 

上記のとおり、立花氏からの最高裁への上告が棄却されて、懲役2年6月・執行猶予4年の有罪判決が確定したことになります。

 

上記の東京高裁判決では、次のとおり、一審で認定した犯罪事実の要旨を次のとおり示しています。
なお、下記の「C協会」というのは、日本放送協会つまりNHKのことです。(裁判所がNHKのことまでC協会と抽象化するのは不思議です。)

当時A党の党首であった被告人が、
①A党を脱退したBの携帯電話機に、「今からお前が議員辞めるまで徹底的にYouTubeで叩き続けるから覚悟しておけよ!」などと記載したショートメールを送信した上、YouTubeに、「このB、こいつはもうほんと許しません。」、「俺、もう許さないですからね。親父の方は、もう先が無いからあれだけど、これ25歳のBは、これからもね、徹底的に叩き続けますから。俺、奥さん、この人、この子のお母さんも彼女も知ってますよ。徹底的にこいつの人生、僕が潰しに行きますからね。」、「B親子、特に息子、覚悟しとけ。お前ら許さんぞボケ、俺どんだけ怒ってるか分かってるか。」、「徹底的にしばくからな。」などと発言する様子を撮影した動画を投稿し、さらに、BのFacebookのアカウント宛てに、「おまえ、中央区で歩けないくらいYouTubeでディスりまくり続けるからな!」などと記載したメッセージと上記動画のリンクを送信し、さらに、上記動画のタイトル欄にBの住所及び電話番号を入力し、同動画等を順次Bに閲覧させ、もって、B及びその親族の身体、自由及び名誉に危害を加える旨告知して脅迫した(脅迫)、
②C協会から営業秘密である受信契約締結者等の情報を示されていた共犯者と共謀の上、不正の利益を得るとともに、C協会に損害を加える目的で、営業秘密の管理に係る任務に背き、共犯者がC協会から貸与されていた業務用携帯端末(D)に記録された受信契約者等の情報を画面に表示させ、被告人がビデオカメラで撮影して(以下、撮影に係る動画を「原動画」という。)その複製を作成し、C協会の営業秘密を領得した(不正競争防止法違反)
③C協会放送センター西玄関前路上でC協会に電話をかけ、C協会職員に対し、「C協会さんが僕にくれた個人情報をまき散らしていいかな。」、「東京都世田谷区のエリアの人の個人情報を私は、C協会が委託した会社の社員から預かっております。映像もあります。住所やお名前、どこの金融機関でC協会のお金を払っているのか、そういった情報まであります。」などと申し向けるとともに、街頭宣伝車の拡声器を使用して不特定多数のC協会職員に了知させ、さらに、C協会放送センター内で、C協会職員に対し、「私のところに個人情報が来ていますよね。」、「あれ、出したらまずいんでしょ。」、「俺会長と話したい。」、「やっぱり個人情報出すってのはこちらも犯罪になりますからね。」、「14日以内に何のリアクションがないようでしたら先ほどのこちらの人質となっている個人情報を拡散します。」などと申し向け、さらに、YouTubeに、上記②で撮影した原動画を一部修正した動画(以下、「本件動画」という。)を、「国会議員がC協会から個人情報をもらっている証拠動画12月4日までにC協会から連絡がない場合は、モザイクをはずして、個人情報を公開します。」とのタイトルを付して投稿し、C協会職員に了知させ、C協会職員らに、本件情報の公開・拡散防止に向けた対応、本件情報に含まれる受信契約者等に対する訪問謝罪等を行わせるなどして、C協会の正常な業務の遂行に支障を生じさせ、もって威力を用いて人の業務を妨害した(威力業務妨害)

 

上記②の不正競争防止法違反というのは、本件では不正競争防止法第21条1項3号ロの行為のことで、営業秘密記録媒体等不法領得罪と言われるものの一つです。条文を以下に挙げます。

 

 

不正競争防止法
(罰則)
第二十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一  略
二  略
三 営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者
イ 営業秘密記録媒体等(営業秘密が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体をいう。以下この号において同じ。)又は営業秘密が化体された物件を横領すること。
ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。
ハ 略

 

 

 

営業秘密記録媒体等不法領得罪などの営業秘密侵害行為の法定刑(不正競争防止法21条1項)は10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金またはその両方ということですから、最大で懲役10年かつ罰金2000万円が課されるということです。
刑法の窃盗罪(刑法235条)の法定刑(10年以下の懲役または50万円以下の罰金)と比べると、営業秘密の侵害行為は単なる窃盗よりも重い犯罪ということになります。

 

営業秘密記録媒体等不法領得罪に問われた立花氏の行為は、NHKの集金人の共犯者(NHKから委託を受けた会社の従業員)が業務用携帯端末に記録された受信契約者等の情報50件を端末の画面に表示したものをビデオカメラで撮影して、営業秘密記録媒体の記録の複製を作成してNHKの営業秘密を領得したというものです。

 

本件で問題となった営業秘密記録媒体等不法領得罪の要件は、
<主体>営業秘密を保有者から示された者
<行為>営業秘密の管理に係る任務に背き、営業秘密が記載・記録された記録媒体等の記載・記録等について、その複製を作成する方法で営業秘密を領得すること
<主観的な要件>不正の利益を得る目的または営業秘密の保有者に損害を加える目的(図利・加害目的)
の3つです。

 

<主体>に関しては、立花氏自身は、営業秘密の保有者つまりNHKから営業秘密を示された者ではありません。
共犯者であるNHKの集金人は、NHKから営業秘密を示された者に該当しますので、その集金人と共犯であれば上記の<主体>そのものでなくても犯罪に問われます(刑法65条1項)。

<行為>としては上記のとおりビデオカメラで携帯端末の画面を撮影して営業秘密の記録を複製して営業秘密を取得したということになります。なお、営業秘密の管理に係る任務に背いたのは直接的には共犯の集金人となりますので、立花氏は共犯として集金人の行為についても責任を負うことになります(刑法60条)。

<主観的な要件>の図利加害目的があったことについては、被告人・弁護人は一審・控訴審で争っています。
一審の東京地裁では、集金人から受信契約者の個人情報等を取得すればNHKや業務委託先の情報管理に問題がある旨を批判することが可能になり、NHKを批判する活動に役立つと認定されています。NHKを批判する活動に役立つのは、上記③の威力業務妨害罪のところで認定されているように受信契約者等の情報を撮影した動画を利用してNHKに要求を行っていることから明らかとされています。
また、NHKにとって、本件の受信契約者の個人情報が外部に流出すれば、社会的な評価・信用が損なわれ、業務に様々な支障が生ずることは明白であり、本件の情報をすすんで領得し流出させた被告人(立花氏)には、NHKに「損害を加える目的」があったことも問題なく認められるとされています。
控訴審の東京高裁でも、図利加害目的を否定する被告人・弁護人の主張は認められず、図利加害目的を肯定しています。

裁判所は、この図利加害目的について、経済的な利益や損害についての目的に狭く限っていません。背任罪(刑法247条)の図利加害目的の解釈と同様です。

 

この事件からも分かるように、営業秘密の保有者から営業秘密を示された人は、広い意味で利益を図ったり営業秘密の保有者に損害を与える目的で、営業秘密を侵害するような行為を行ってしまうと、思っていたより重い刑事責任を負うおそれがあります。

また、大切な情報を保有する企業は、「営業秘密」として認められるように情報を管理することで、営業秘密を侵害する行為には刑罰が加えられる可能性があるということによる侵害予防の効果が期待できます。
(ただし、侵害する人は侵害しますので、情報を適切に管理することは非常に大切ではあります。)