営業秘密不正開示行為の解釈について  | 札幌で営業秘密・企業秘密に強い弁護士なら北海道コンテンツ法律事務所

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コラム

営業秘密不正開示行為の解釈について

 営業秘密についての不正競争の一つとして、
営業秘密について営業秘密不正開示行為であることを知って、もしくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得する行為は
不正競争となります(不正競争防止法2条1項8号)。

 

 この営業秘密不正開示行為というは、

①営業秘密保有者から営業秘密を示された場合において不正の利益を得る目的または営業秘密保有者に損害を与える目的でその営業秘密を開示する行為

秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為

をいいます(不正競争防止法2条1項8号かっこ書)。

 

 ここで、②の行為について、「秘密を守る法律上の義務」には契約上の義務(秘密保持義務)が含まれるのかどうか問題(争点・論点)になると思われます。
条文の文言上は「法律上の義務」とあるだけで「契約上の義務」については書かれてないからです。

 法律上の守秘義務としては、弁護士の守秘義務(弁護士法23条)や公務員の守秘義務(国家公務員法100条1項、地方公務員法34条1項)があります。

たとえば、公務員Aが職務上知ったX社の営業秘密をその守秘義務に違反して、Y社に開示した場合、Y社が公務員Aの守秘義務違反を知っていたか、重過失で知らなかった場合は、Y社がX社の営業秘密を公務員Aから取得した行為は不正競争となり、差止請求や損害賠償請求の対象となり得ます。

 

 裁判例では、この「法律上の義務」には契約上の義務を含むとするものがあります(知財高裁平成30年3月26日判決)。裁判例の中では、契約上の義務を含むことについて特に理由は明らかではありません。

 この裁判例の裁判長の髙部眞規子氏の『実務詳説 不正競争訴訟』(2020年・きんざい)には、「法律に規定された守秘義務…のほか、契約上の守秘義務も含む」とあります(224頁)。こちらも特に理由は示されておりません。

 同様に、小野昌延・松村信夫『新・不正競争防止法概説 第3版 上巻』(2020年・青林書院)369頁や茶園成樹編『不正競争防止法 第2版』(2019年・有斐閣)83頁 でも特に理由を示さずに契約上の守秘義務が含まれるとしています。

 契約上の守秘義務というのは、たとえば秘密保持契約を締結して営業秘密の開示を受けている場合の義務のことです。

 

 なお、経済産業省知的財産政策室編『逐条解説 不正競争防止法 令和元年7月1日施行版』96頁や、金井重彦ほか編『不正競争防止法コンメンタール 改訂版』(2014年・レクシスネクシスジャパン)114頁では、契約上の守秘義務が「秘密を守る法律上の義務」に含まれるかどうかについて言及がありません。

 

 

 契約上の守秘義務は上記②の行為の「法律上の義務」には含まれないと考える理由としては、上記の①の行為で不正の利益を得る目的または営業秘密保有者に損害を与える目的(図利加害目的)で限定されていることとのバランスや条文の文言が「法律上の義務」となっていることが考えられます。

 他方で、不正競争の範囲を広く解して営業秘密の保護を図るとすれば、この「法律上の義務」に契約上の守秘義務も含まれると解釈することになるでしょう。

 

 

 もしこの点を争うような事案のご依頼があれば、私としては、依頼者の有利な方で解釈して戦いたいです。