報道によると、ロレックスの非売品のスプーンを加工して作った指輪を販売していた人が、不正競争防止法違反で京都府警に逮捕されたとのことです。
営業秘密の事案ではないですけど、不正競争防止法の問題なので投稿します。
この件は、不正競争防止法違反の著名表示の冒用という被疑事実だそうです。
不正競争防止法で「不正競争」とされる著名表示の冒用は、次の条文(2条1項2号)で規定されています。
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
この著名表示の冒用が犯罪とされる規定は、21条3項2号にあります。
(罰則)
第二十一条
3 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一
二 他人の著名な商品等表示に係る信用若しくは名声を利用して不正の利益を得る目的で、又は当該信用若しくは名声を害する目的で第二条第一項第二号に掲げる不正競争を行ったとき。
21条3項2号で定められているように不正の利益を得る目的等で2条1項2号の著名表示の冒用をすると、この罰則規定に定められている犯罪に該当します。
報道された内容によると、ロレックスのマークがついた指輪の販売ということですので、他人であるロレックスの信用や名声を利用して利益を得ようとして他人であるロレックスの表示を仕様した商品の譲渡ということで、著名表示の冒用として不正競争防止法違反の犯罪に該当しそうに見えます。
ただ、「自己の商品等表示として」といえるのか、疑問は感じます。
たとえば、中古品の販売としてロレックスのマークのついたスプーンを販売する場合、自己の商品等表示つまり自分のブランドとして中古品を販売はしていないわけですから、著名表示冒用の不正競争とは言えないと考えます。
次に、非売品のロレックスのスプーンの販売に指輪に加工する業務委託サービスを付加して提供していたという場合は、指輪の加工サービスにロレックスの商品等表示をするわけではないですから、「自己の商品等表示として」ロレックスの表示を使用して譲渡とはいえないと考えます。
本件の指輪の販売は、中古品のスプーンに指輪加工のサービスを付加したものともいえるでしょうから、「自己の商品等表示として」の要件を満たすのか疑いがあります。報道の中には、加工の過程をSNSで公開して販売していたという事情もあるそうですから、やはり中古スプーンに指輪加工のサービスを付加しただけと評価できそうです。
検察は今回の件を起訴するのか(起訴できるのか)、注視したいと考えます。起訴猶予になる可能性は小さくないと思います。
逮捕によって事実上このようなビジネスは潰されることになったでしょう。起訴されて裁判所の判断が示されないと、グレーな状態で一つの業態がわが国では無くなったことになります。単に一つの警察の判断(捜査)で、社会・経済に大きな影響が与えられてしまうのは良いことだとは思いません。
(そもそも逮捕の必要があったのか、逮捕してマスコミ発表して実名報道させる必要があったのかにも、大きな疑問があります。)